1999年11月中旬の日記
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■11月11日(木)
ここのところ、仕事がキツイことしか書いていないような気がする。自分で読んでいても面白くない。ツライ。でも、仕事以外のことを考える余裕が与えられない生活をしているので仕方がないのである。

昨夜も1時過ぎまで仕事をしていた。で、今日はいったい何曜日だっただろうか。たしか、昨夜コンビニでマガジンとサンデーを読んだから…たぶん木曜日だ。あと2日も平日があるのか。しかもその後もたぶん休めないし。



■11月12日(金)
昨夜は2時半まで仕事をした。まあ、昨夜は客先から発注元に移動する途中で食事をしたので、寝た時間は変わらないのだが。今日は、ここ数日に比べて発生したトラブルが少なかったので、多少遅くなっても頑張って明日を休みにしようかと思っていたのだが、疲れて物事を考えられない。こういう仕事で頭が回らないというのは致命的である。早めに帰って(といっても翌日になっていたのだが)明日改めて残件を片づけることにする。

台湾の地震の影響で新しいFIVAの発売が延期になるそうな。ガッカリである。



■11月13日(土)
今日も仕事である。今日は客先が休みで立ち会う必要がないので10時に仕事場に出ることにしていたのだが、目が覚めると10時であった。まあ、休日だからいいか。今日も、片づけるべき項目は昨日までの残件のみなのでそれほど多くはないのだが、何かと問題点を見つけてしまって21時になってしまった。うまくいけば夕方には終わると思っていたんだがなあ。まあ、最終の急行より1時間早いだけでもよしとするか。しかし、今週は長かった。本当に長かった。1ヶ月分くらい働いたような気がするぞ。果たして私は来週も使いものになるのだろうか。

いつもより1時間早い急行で帰る。今日は電車の中で「
異形コレクションXIII 俳優」を読む。まず篠田真由美氏「君知るや南の国」である。文章のリズムがいいですね。なかなか読みやすかったです。続いて小沢章友氏「伝説のサラ」であるが…うーん、こういうネタならもうちょっと怖くできると思うんだがなあ。あっけなさすぎる。さらに森真沙子氏「肉体の休暇」を読む…うーむ、何なんでしょうかねえ。どうもツボをはずしているような。続いて安土萌氏「死体役者」を読んだ。いやいや、これは面白かったですね。こういう面白い設定を思いついて、それをうまく膨らませる。こういう当たり前のことが、なかなかできないものなのであります。そして倉阪鬼一郎氏「白い呪いの館」であるが、やっぱり求めるものが違うのね。なーんにも感じない。しかし、ここまで読んできて新しい人が一人もいないぞ。良くない傾向だと思うんだがな。

今日は、その日のうちに家にたどり着くことができた。それだけでも幸いと思うべきか。息子はまだ寝室の中で寝ついていないそうだ。パジャマを取りに寝室に入っていくと、彼は起き上がって「とーちゃんや」と言ってくれたのだった。一週間の間に、ずいぶんと喋り方がはっきりしてきている。加湿器を指差して「あれ、あついねん」「けむり、もくもく、してる」とか言っている。「シンちゃん(仮名)のぱじゃま、あおい」と言う。彼は青いパジャマが好きなのである。世界に「色」という属性があるということがわかった時期なので、まず色を意識するのだ。しばらく喋ったが、このまま起きられても困るので「寝るか?」と訊くと、お尻を上にして、ころんと横になった。毛布を掛け、しばらく横にいる。あまり長く横になっていると、こちらが先に堕ちてしまうので、早々に寝室を抜け出したのであった。息子よ、キミを独りで置いてゆく父を許せ。



■11月14日(日)
昨夜、家に帰るとカミさんはチャットしていた。
「イニD」のサイトのようである。横で日記を書いていたのだが、ぜんぜん終わらない。日記を書き終えて、彼女が買ってきていた早売りのジャンプ「ヤンマガ」を読み終えてもまだやっている。シャワーを浴びて帰ってきてもまだやっている。私が家に帰ってから3時間経ってもまだやっている。いつしか私は意識を失っていたのであった。

昨夜は居間で寝入ってしまった。カミさんがタオルケットを掛けてくれたようだが、やはりそれだけでは寒い。でも起きられない。気がつくと朝の8時を過ぎていた。テレホタイムは終わってしまっている。哀しい。寒いので寝室に行って布団を被る。気がつくと息子がむっくり起き上がっていた。私の布団の中に入れて寝かそうとする。寒いので彼を湯たんぽ代わりにできれば、という意図もあった。しばらくじっとしていてくれたのだが、「おなか、いたい」と言いだした。どうしたんだ。続いて「うんこ」と言った。そうか、ウンチしたいのね。急いで半纏を羽織り、トイレに連れていく。だが、オシッコしか出ない。また寝室に戻って寝る。もう息子は起こさなきゃいけないんだがなあ…とか思いながら悶々としていたら、カミさんが起きてくれたようである。

遠く、妻子が出かけようとしているのを感じる。「どこ行くの?」と訊くと「日本橋」と応えられた。だが、私には「それなら私も…」と言う気力も無かったのであった。一度小用で起きたときに時計を見ると13時であった。でも、そこでは起きられなかった。もう一度布団に潜り込んで、気がついたときには15時になっていた。夜は寒かったが、今日も日中は暖かい。もう11月も半ば過ぎたんだがな。起きて血の巡りが良くなるまでじっとしていたら、妻子が帰ってきたようである。「ただいまー」と息子の声。「ちかてつ、のったんですかー」と言って、母親に「『地下鉄、乗ったんですよ』て言わな」と訂正されている。路面電車にも乗ったようである。そうか、それも目的だったのね。大阪で路面電車というと、あそこくらいだからな。

夕食は、カミさんが寿司を食べたいというので寿司を取ることにする。折り込み広告が入っていたチェーン店の宅配を頼む。地元に古くからあるお寿司屋さんに出前を頼むよりも、こういうピザの宅配みたいな形態のほうが申し込みやすいのである。なぜだろう。基本的には同じはずなんだが。かなり気分的な要素が大きいような感じはする。何となく若い者には近寄りがたい雰囲気があるのよね。広告に開示されていると会計も明朗そうだし。こうやって、古い店は客を減らしてゆくのであろうか。

今夜は私が息子を風呂に入れることになる。カミさんが「たまには一人でゆっくり風呂に入りたい」と言ったのである。夕食後、風呂に入る前にビデオを返してこようと思ってAVを編集していたら、息子が「びでお、かえしにいきましょー」と言いながら階段を下りてきた。おいおい、もう22時過ぎなのに出かける気かよ。あう、部屋に入って来やがった。落ち着いてビデオを鑑賞できんぢゃないか。カミさんが、私が出かけることを彼に言ったんだな。彼女も下りてきて玄関で彼にコートを着せている。もうすっかり彼の準備はできているようである。ちょっと待てぃ。ダビング中の行為がクライマックスに至るまでには、あと数分かかるんだってば。

息子を連れてビデオを返しに行く。彼を自転車に乗せるときに木星を指差して「お星さんや」と言ったが、彼には認識できただろうか。家に帰ってくると、彼は玄関のチャイムのボタンを押し、「ただいまー」と叫ぶ。何度も叫ぶ。そこいら中に響きわたる大声である。だが、カミさんは下りてこない。トイレに入っていたようである。息子を玄関に入れ、自転車を片づけて家に入ると、彼は「おしっこ」と言っている。かなり切迫している。これはトイレに連れて行っていたのでは間に合わないな。こういう場合、風呂場でやらせるのである。コートを脱がせようとするが、ジッパーとボタンの両方を留めてあるので、焦るとなかなかうまくいかない。彼は足踏みをして耐えている。やっと脱げた。もう少し我慢してくれ。パンツを脱がすと、すでに彼のオチンチンの先は濡れていた。だが、まだ漏れてはいない。彼は風呂場に駆け込むと、しゃがんでチーッと用を足したのであった。

今夜は私が通信したいので、カミさんに息子を寝かすようお願いする。だが、絵本を読むのは私がやらねばならないようである。まあ、ここ一週間ほど読んでやっていないからねえ。絵本を読んでいると、カミさんは布団を被って動かなくなってしまった。一人でゆっくり風呂に入るはずだったはずだったんだけど。「2時になったらオシッコさせてやって」と言われた。しかし、通信していて30分ほど遅れてしまった。寝室に上がって確認すると…あ、濡れてる。居間に着替えを取りに下り、息子を起こしてオマルでオシッコをさせる。服を全部脱がせて着替えさせる。彼は「すぼん、はく」「しゃつ、はく…きる」と言う。もう、そういう動詞の使い分けができるのか。まあ、いつも言われてることだろうからね。個人的には、シャツでもズボンでも「身につける」というのは同じ動詞でいいんじゃないかと思うんだけれども。



■11月15日(月)
昨夜は、ふだん行けないサイトを廻っていたら4時を過ぎてしまった。出張中は公衆電話から通信しているので、
テレホーダイが使えないのである。だから、その日が過ぎると消えてしまうニュースのサイトとか最低限のサイトしか行ってないのだ。今週もキツくなりそうだな。自業自得なのかもしれないが。

今日からまた遠方の客先に出張である。もういいかげん、このフレーズを書くのは厭になってきたな。読まされる方はもっと堪らんだろうけど。長距離移動の電車の中で本を読むか日記を書くかしようと思うのだが、しんどくてどうにもならない。寝る。途中で、車内がある程度空いてからは、恥も外聞もなく横掛けのシートの上に横になって寝ていたのだった。

今日はトラブルはほとんど出なかった。夕方に客先の担当者の方も帰られたので、これはもう帰れるのではないかと思っていたのだが、別のグループのプログラムが動かないのはウチのデータのせいだと言いだした。向こうは自分のところの保身しか考えていない。ウチのプログラムは動いてないんだろう。よくよく調べると、また別のグループがウチのデータを壊していたことが判明した。けっきょく、我々が復旧方法を検討してデータを復旧することになる。で、やっぱり仕事を終えたのは翌日になってしまったのであった。

今日は間食に「ヘルシーバランス パンプキン」(山之内製薬)を食べた。味はBALANCE UPに似ている。つまり、カロリーメイトよりは美味いということだ。



■11月16日(火)
今朝はちょっと熱っぽかったのだが、昨日のトラブルで壊れたデータをお客様に入れ直していただかねばならないので、そんなに遅くなるわけにはいかない。ツライねえ。客先に出ると、また別の部署でトラブっているという。今日も忙しくなりそうだ。

急に寒くなった。今朝、出勤時には木枯らしが吹いていた。そういえば、昨夜の風は凄かったな。台風のときでも、なかなかこれだけの風は体験したことがないというくらいの強風であった。折り畳み傘を差して風に抵抗していると、骨がぐんにゃりと歪んでしまった。ボロボロになっているのを騙しながら使っていたのだが、とうとう逝ってしまったか。オマケに、コンビニに入るときに傘立てに差していたら、店を出るときには歪んだ骨が引っかかって抜けなくなってしまっていた。押しても引いても抜けない。けっきょく傘立てを解体して、反対側から抜いたのだった。雨も止んでいたし、見捨てていこうかとも思ったのだが、この風で降り出すと悲惨だからね。それでも私は、今朝になって状態を確認して「まだ使える」と畳んで鞄に入れたのだった。



■11月17日(水)
今朝は、職場の課長からの電話で起こされた。すでに9時であった。「今日はいつ出てくるんや」と訊かれて「10時頃には」と応える。「10時か…ギリギリやな」と言ったあとで「ホンマにしんどかったら休んでもええで」と言われてしまった。そう言われると甘えてしまうのである。直属上司に言うと、「何とか出てこれへんのか」と言われてしまった。かなり怒っているようであるが、本当にしんどいのである。ホテルで電話対応ということにしてもらった。

昼まで寝て、昼食に出て部屋を掃除してもらっている間、本屋をブラブラしてて「夜が明けたら」(
小松左京ハルキ文庫)が出ていたので買った。巻末の特別インタビューが興味深い。やっぱり書いた本人は作品についてけっこう忘れていたりするわけなのですね。読者の方がよく覚えていたりする。

14時過ぎにホテルに帰ると、部屋はまだ掃除中だという。またしばらく時間をつぶしに出かける。古本屋に行くが、水曜日は定休日だったのだった。残念。けっきょくコンビニで雑誌の立ち読みをするくらいしか時間つぶしのできない私だった。遠くまで歩く気力もないし。

ホテルに帰って寝ていると電話に起こされる。いい気持ちで寝ていたところだったのに…落ちていた心拍数がドクドクと一気に跳ね上がる。これは心臓に悪いな。仕事の話であった。けっきょく2時間おきくらいに起こされた。なんだか、ぜんぜん休養になっていないような気がする。



■11月18日(木)
昨夜は22時ごろになったら起き出してファミレスで食事でもしようかと思っていたのだが、気がつくと朝の5時であった。慌てて公衆電話に走って通信し、コンビニで朝食を買う。背中が痛い。やっぱり風邪かなあ。

そういえば、昨日は息子の3歳の誕生日だったのだ。電話で声をかけてやることもできなかった。どうしようもない親である。息子の誕生日といえば、今朝は
しし座流星群が見れるはずでもあったのだった…と空を見上げると、どんよりと分厚い雲に覆われていたのだった。まあ、こういうもんさ。

今夜も2時まで仕事をした。食事もせずにである。仕事が終わってからファミレスに行く。疲れて日記を書く気力もないので読書をする。「異形コレクションXIII 俳優」の飯野文彦氏「佐代子」を読んだ。これは、なかなか面白かった。こういう、先を読みたくなるような設定を作ってしまえば、作者の側はもう勝ったようなものでありますな。



■11月19日(金)
ううっ、ドジってしまった。笑ってやってください。
FIVAを壊してしまったのだ。それがまた自分でも笑ってしまうほど馬鹿なことをやったのだ。今朝、ホテルの部屋で私は朝食のカップ入りカニ味噌汁をすすりながらFIVAで昨日の新聞記事を読んでいたのである。飲んでいると紙のカップを覆っているビニールのパッケージが唇に触って気持ち悪いので、それを剥がそうとしていたのだった。ピッタリくっついているので、なかなか剥がれない。力を入れて引っ張ったら、急に剥がれてカップの中身がバシャッと…(涙)

うう、こういうことをしながらパソコンを使っていれば、こういう危険があることは馬鹿でもわかるぢゃないか。我ながらどうしようもないヤツだな。あわててサスペンドさせ、洗面台に持って行って水道水でキーボードにかかった味噌汁を洗い流し、裏返してバスタオルの上に乗せて水分を切る。さすがに味噌汁を内部に浸入させるわけにはいかないからね。水道水の方がまだましだろう。

で、仕事場に持っていって電源を入れてみると「ハードディスクからブートできまへん。システムディスク入れてちょ」というメッセージが出るようになってしまったのである。「ハードディスクからブートできない」というからには、ハードディスクの交換になっちゃうかな。数万円かかるなあ。それはいいんだけど、入っていたデータが無くなるのは痛い。ただ、こういう状況になってもそれほどガックリきていないのは、最低限必要なデータはPCカードにバックアップしていたからだろう。なんかもう、疲れてどうでもよくなっているのかもしれない。でも、ATOKの辞書ファイルは惜しいなあ。あと、このマシンの設定にかけた時間を冷静に考えると気が遠くなりますな。

本来なら新型が出る頃なのだが、遅れるんだよなあ。これが予定通り発売されていればすぐにでも乗り換えるのだが、1ヶ月先ですか…ツライなあ。これは、明日日本橋に行って買った店に駆け込み、速攻で修理に出すしかないなあ。明日休みでも今夜ホテルを取っていたのが役に立ったか。でも、すぐには修理できないだろうから、来週はLibrettoを使わざるを得ないか。あれはキーボードが打ちにくいし、容量が少ないし、最新の情報も入ってないからイヤだなあ。モデムカードもカミさんに売っちゃったから買わなきゃいけないし…などと思いながら、職場を出る前に試しにFIVAの電源を入れてみたら…あ、何だか見慣れた画面が出てるぞ。おわ、起動したっ。助かったでござるよ。

今日はお客様が歓送迎会だということで、夕方で客先を辞することができた。発注元に帰っての作業も終電の30分前に終わってしまった。そうだったら、早く言ってくれれば今朝チェックアウトしたのに、などと愚痴ってしまうのだった。まあ、FIVAが復活しなかったら日本橋に行かなきゃならなかったから、まあいいんだけど。



■11月20日(土)
今日は久しぶりに土曜日の休日である。朝ホテルを出て家に移動を開始する。今日も帰りの電車の中で「
異形コレクションXIII 俳優」を読む。まず北野勇作氏「楽屋で語られた四つの話」である。これは面白かった。怪談のショートショートの連作なのだが、どれもこれも味があって面白い。怪談でも、これだけ楽しませてくれれば満足である。続いて新津きよみ氏「タクシーの中で」である。この作品、オチはだいたい想像がついたのだが、さらに一ひねりしてあるのが良い。やっぱり、作者は読者の想像を超えなきゃね。次に柴田よしき氏「月夜」ですが、こりゃあんまり面白くなかったね。んで江坂遊氏「秀逸のメイク」はさらに面白くなかった。モノローグ形式の話なのだが、言ってることが全く伝わってこない。これは致命的である。。毛利元貞氏「哀夢」は…まあまあですか。このネタだったら、もう少し面白くできると思うんだがなあ。

難波の本屋で「NAGISA」(村上もとか中公文庫)と「ショートショートの広場1」(星新一編:講談社文庫)を買う。「NAGISA」はカミさんが探していた作品が入っているようなのだ。あ、これこれ。「神の娘」ですね。先日「こういう話なんだけど」と言われて「岳人列伝」(少年ビッグコミックス)を出してきたのだが、そういう作品は入っていなかったのだった。この「岳人列伝」は、私の長い人生で読んできたマンガの中でベストな作品の一つなのです。まだ置いている本屋もあると思いますので、未読の方はぜひお読みください。「ショートショートの広場」は、疲れているときにはショートショートが読みやすいですからね。日記のネタがないときにも、これを読めば何か書けるだろう。

難波から家に帰る電車の中で「NAGISA」を読んだのだが、いやぁ、やっぱり村上もとか先生の作品はいいですねえ。登場人物がじつに魅力的です。これだけ深く「人間」を描くのは、並大抵の実力ではできませんな。それに、素晴しくデキるアシさんがいるのでしょうか、背景も素晴しい。これも作品世界に深みを与えていますね。まさか、これもご本人が描いたのではないでしょう。

家に帰るとカミさんは寝ていた。出張先のコンビニで買って余っていたパンを食べて日記を書く。今日は息子を保育所に預けているようである。今日は、少しはイチャイチャできるかな。16時頃になってカミさんが起きてきた。私が帰ってきたのを夢かと思っていたそうである。もう、そういう存在なのね、私は。

今日は私が息子を保育所に迎えに行くことにする。久しぶりの対面なのだが、今日も彼にはそれほど感動はないようである。よく見ると、ズボンを前後反対に着ている。自分で穿いたんだな。カミさんが以前、「保育所の子が薄汚く見えるのは、自分で服を着てるせいなのね」と言っていたのを思い出す。昔の子供もそうだったし、その方が子供の成長のためにはいいんでしょう。なぜかパンツを2枚穿いている。理由は謎である。自転車に乗せていると、ペチャペチャ喋りっぱなしである。それでも、保健所の検診で「コミュニケーション能力が不足しているので、意識して喋ってやるように」と言われたらしい。家でも一人遊びが多いからねえ。まあ、わたしもそういう子供だったから…そういう血を引いているのか。

保育所から家に着くとカミさんも戻ってきたところだった。早売りのジャンプ「ヤンマガ」を買ってきたはずなのだが、ずいぶんかかったな。買い物もしてきたらしい。私と息子は、そのまま野菜ジュースを買いに行くことにする。自転車で左に曲がると「そっち、ひだりですかー」と言う。え、こっちが左だということがわかるのか。方向の認識というのは、色の認識なんかよりもよっぽど難しいと思うのだが。

最初の店に入ると、息子はキムチを見つけて「きむちー」と叫ぶ。まったく、何でこういうのが好きなのかね。保健所でも好きなものを聞かれて、イクラとかキムチとか酒の肴のようなものばかりだったので笑われたらしい。私が今日明日しか家にいないので、キムチを買っても酸っぱくしてしまうから買わないのだ。いつも1リットルパックを198円で売っている店に野菜ジュースがなかった。店を出ようとすると、息子は「じゅーす、かう」と言って出ようとしない。「別の店で買うからな」と説得して、やっと店を出たのであった。ふう。店を出るときに息子は「おなか、いたい」と言いだした。トイレか。次のスーパーに入るまで我慢してくれ。

次のスーパーに入ると、息子は「えれべーたー、のる」と言い出す。エレベーターじゃなくてエスカレーターだよ。エスカレーターで2階まで上がり、階段で3階のトイレに上がる。用を足したあと、便器の水を流して、石鹸で手を洗いたがるのはいつも通りである。2階に下りると、また「えれべーたー、のる」と言って入り組んだ売場の中をエスカレーターに向かって直行する。もう、方向感覚も一人前かな。今度の店でも、彼は納豆売場を見つけて「おかめなっと」と叫ぶ。彼にとっては「納豆=おかめ納豆」なのである。テレビCMの効果というのは恐ろしいものである。

家に帰って夕食である。息子はアサリのバター焼きを見て「かい、たべる」と叫ぶ。手づかみだが、自分で貝の身を外して食えるようになっている。「おかめなっとぉ、たべる」とも繰り返す。また「納豆は明日の朝食べるからな」と説得するのである。最近妻子は大根キムチをよく食べているらしいのだが、それをみるとまた「だいこんきむち、たべる」と叫ぶ。飯と一緒に食わずに「からいー」と顔をしかめて、お茶を飲むのである。こらぁ、キムチはご飯と一緒に食わなきゃいかんじゃないか、と言ってご飯を口に入れようとすると嫌がるのである。やれやれ。

息子はテレビを見ていると「らいふすぺーす」などと言う。時勢に影響されるもんだねえ。カミさんによると「ちかてつさりんじけん」とかも言うらしい。何というか、複雑な心境である。何も、そんな言葉を覚えなくてもいいだろうに。 夕食後にカミさんに「お探しのものはこれでございましょうか?」と言って「NAGISA」を見せたら、「買ったの? それほど読みたいわけじゃなかったのに」と言われてしまった。嗚呼。

狼谷辰之  新書館ウィングス文庫
なるさだめ
¥600+税  ISBN4-403-54013-9



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