1999年4月中旬の日記

■4月11日(日)
【注意】
今日の日記は、食事中の方は読まないように。

熱が出た。こうなる前に昨日休んでいっぱい寝たから、なんとか大丈夫だったかなと思っていたのだが。

今日も昼過ぎまで寝ていた。で、今日も起きてみると妻子はいない。また同じように顔を洗っていると帰ってきた。「午後はシンちゃん(仮名)お願いね。私は締め切りがあるから」と言われる。午前中はお世話いただいたんだから、そういうことになりますな。

昨日湿布してもらって腰痛はだいぶ楽になったのだが、今度はそれが腰を追い出されて背中に来ているようである。これは、息子を昼寝させて、その間に風呂にでも入って血の巡りを良くすべきだな。

カミさんは
ミスドでドーナッツを買ってきた。息子に食べさせている。私は、息子が朝食で食べ残したインスタントスープを温めなおしたのと納豆である。納豆は一ヶ月前のだけど、発酵食品だから大丈夫だろう。もっと古いのも食ったことがあるし。納豆を食べていると、例によって息子が欲しがる。けっきょく、私の食事の半分くらいは彼に食べられてしまった。私はちょっと足りないので、ドーナッツを食べた。だが、どうも胃にしっくり収まらない。思えば、これが不調の本格的な始まりだったのだ。

それからいろいろあって、カミさんと息子は寝室に行って昼寝である。私はカミさんの原稿のチェックをする。昨夜私がチェックしてから朝まで直したのであろう。心理描写はかなり良くなっている。これなら大丈夫じゃないかな。昨夜(というより今朝)私が寝てから今までの間にずいぶんと変わるもんだねえ。

カミさんの原稿のチェックもすんだので、さあ今から風呂にでも入ろうと思ったのだが、どうも身体が動かない。そのうちに身体がゾクゾクしてきた。悪寒である。こんなに酷い悪寒は久しぶりである。葛根湯を飲んで寝室に駆け込み、布団に潜り込む。

夕方になって目覚めると、やはり熱が出ているようである。計ってみると38.3度あった。カミさんは原稿発送の準備をしている。今回は宮本春日さんがDTPソフトでレイアウトしてくれるというので、パソコン用のフロッピー渡しなのである。カミさんがやり方をよくわかっていないようなので、フロッピーの中身をチェックする。

夜中になって、頭が痛くなってきた。頭というより、眼である。目玉が痛い。ううっ、これはエボラか?(んなこと無いって)眉間から頭の中心部にかけて猛烈に痛む。気分が悪い。身体が熱いのもあって、布団の上をゴロゴロと転げ回る。身の置き場がないというのはこういうことか。

そのうちに、この頭痛の原因が胃にあるのではないかと思えてきた。どうも、胃の不調が背中の凝りを誘発して、そこから頭痛が発生しているような気がしてきたのである。そこで、トイレに行って吐くことにする。ノドの奥に指を突っ込むと、素直に吐けた。ドロドロになったドーナッツが出てきた。これでかなりラクになった。

それでもまだ頭痛は残っている。まだ吐き足りないような気がする。再度トイレに行って吐こうとするが、出ない。胃をギリギリまで絞り上げるのだが、出てこないのである。苦しい。お茶を飲んで胃の中を洗って、もう一度出すことにする。でも出ない。身体中を絞り上げるようにして出すと、少しだけ苦いというか渋いというか、そういう味の黒い液体が少しだけ出た。これが胆汁というものだろうか。

カミさんも熱があるそうである。どうなるのであろうか。まったく病弱な一家なのである。そういえば、今日は選挙だったか。けっきょく行けなかったな。



■4月12日(月)
今日は仕事を休むのである。勤務開始時刻前に起きて、職場に休む旨電話を入れる。今朝も起きたときには妻子はいなかった。息子を保育所に連れて行っているのだ。カミさんが帰ってきたので医者に行く。感染症だそうである。喉も腫れているらしい。明日は早起きして遠方の客先に行かねばならないので、点滴を打ってもらう。500mlの水分を注入してもトイレに行きたくならなかったというのは、やはりかなりの水分が身体から抜けていたということだろうな。ずっと寝ていてかなり汗をかいたと思うのだが、ほとんど何も口に入れてなかったし。入院してた頃は、点滴の時間は連日尿意との闘いだったのだが。

来月はじめに小説Wings文庫から出る「対なる者の証」のイラストが、若島津さんからどんどんFAXで送られてくる。横で見ているだけでもなかなか楽しいものである。



■4月13日(火)
今日は朝早くから遠方の客先に行かねばならないので、いつもより1時間早く家を出た。長時間の移動となるので、今日も長編小説を読むのである。今日読み始めたのは
友成純一氏の「黄金竜伝説」(ハヤカワ文庫JA0551)だ。「異形コレクションVI 屍者の行進」に収録されていた「地獄の釜開き」が良かったので、この人の作品を買って読む気になったのである。こういう読者がいるから、ああいったアンソロジーでは力を入れて書かねばならないのだよな。ただ、この作品は読みやすくはあるのだが、読んでいてあまり心ときめくという感じはしなかった。私はどうも伝奇小説もあまり面白く感じないらしい。伝奇小説の荒唐無稽さというのを楽しめないのだ。SFなら楽しめるんだがなぁ。

おかしい。どうもフラフラする。医者でもらった薬の副作用であろうか。どうも見聞きしていることに現実感がない。身体のコントロールがうまくできなくて、事故でも起こしそうな不安を感じる。こういった感覚を体験すると、人間の精神状態なんてものも、たやすく薬の影響を受けてしまうのだということを痛感する。現代ならば、一服盛れば人間を幸せにしてしまうこともできるのであろうな。たいていの人は薬の力で幸せな気分になるのは嫌だと言うだろうが。ただ、精神安定剤を用いて不安を取り除くというのは日常的に行われている「治療行為」なので、これがクスリでラリってシアワセになることと、どれほどの違いがあるのかがよくわからないのですね、私には。人間の精神を薬でどこまでコントロールすることを許すかという問題なんですけど、どうも明確な線は引けないような気がして仕方がないのです。こういうことを考えるのも、ラリって頭がフラフラしているせいかしら。今朝早起きしたから眠くて頭が回らないのもあるよな。

そういえば、小説Wings文庫から出る「対なる者の証」であるが、どうやら編集さんの話では今月中に出版することを目標にしているらしい。やはり、ゴールデンウィーク前に出した方が売れ行きが良いということなんだそうで。



■4月14日(水)
最近の息子は、保育所を変わって不安になっているところに病気になったためか、非常に甘えん坊になっているのである。何かというと「かーちゃん、だっこ」と言いだすのである。昨夜も夜中に泣き出した。インターネットしていたカミさんが寝室に上がっていって様子を見ていたが、一緒に寝ることにしたらしい。彼女が洗面所で歯を磨いていたら、彼はまた階上で泣き始めた。私が代わりに上がっていくと「とーちゃん、ばいばい」とか言いやがる。腹が立ったので、無理矢理抱きしめてやる。「だっこ、いらんの」と逃れようとするが、逃がさないのだ。こういうスキンシップは逆効果かもしれないがねえ。

今日は、午前中仕事を休んで薬の副作用を訴えるために医者に行ったら、点滴をされてしまった。そんなつもりじゃなかったんだがな。今日の私の点滴担当は若い不慣れそうな看護婦さんであった。「痛くないですか」と何度も聞いてくる。そう言われると、かえって不安になったりするんだな。彼女は、先日来たときには隣のお婆さんに誉められて「うれしい」と感激していたのだが、横で見ていると微笑ましいことでも、自分がされる立場になるとねえ。私は人間ができてないのである。いつもは針を刺してしまうと痛みは感じなくなるのだが、気のせいか点滴中も針の痛みを感じる。こんなことも、針を刺す手際によって影響されるのだろうか。

点滴の液が冷たいので、体内に入ってくると血液が冷えるような感じがするのである。どうせだったらマイクロ派ででも人肌に暖めてから注入してくれればいいのに、とか考える。こういうさりげないサービスというのは受けるんじゃないだろうか?

クスリは白い粉薬を避けて飲んでみるように言われた。あれがいちばん無難そうに見えたのだが、わからないものである。

点滴されたので予定より遅くなってしまった。医者からの帰りにパンを買い、カミさんといっしょに食べてから出社する。通勤時に「黄金竜伝説」の続きを読む。7割くらい読んで自分に合わないことがわかったので、作者には悪いが残りは1ページ1秒くらいのスピードで読み飛ばす。私には時間がないのだ。買って読んでいない本は山ほどあるのである。

余った時間で、インターネットから落としてきたテキストファイルを読むのである。
ZAURUS「TTV ブックリーダー」というフリーソフトを入れて読んでいるのである。これは便利なのである。ZAURUSで大きなテキストファイルが読めるのである。こういうソフトをずっと探していたのである。これがあればCASSIOPEIAは要らない。鞄がかなり軽くなった。作者の方に感謝!

午後だけとはいえ、仕事は何とかこなしたのだが、帰宅する途中に何だか調子が悪くなってきた。胃の中に、昼に食ったパンが消化されずに残っているような感じなのである。どうも熱っぽいし。こうなってみると、点滴した医者の判断は正しかったということになるか。

今夜は早く帰宅することができた。玄関を入ると、息子が2階の踊り場までやってきて「あかえり」と出迎えてきてくれる。「ただいま」と言うと彼も「ただいま」と応える。まだ帰って来た側と迎える側の区別はついていないようである。3階まで着替えに上がると、彼もついてきてまとわりついてくる。今日は友好的なようである……と思ったのだが、寝るときになると「とーちゃん、ばいばい」を始めるのである。私が寝室についていこうとすると、泣いて嫌がる。どうやら、寝るときには母親とでないといけないらしい。ということで、今夜も息子を寝かすのはカミさんにお願いしたのだが、妻子が寝室に上がった直後に電話がかかってきた。編集さんからであった。仕事だ。カミさんを呼びに行って交代する。息子も当初は嫌がったが、絵本を読んでいると、そちらに気を取られて状況の変化は気にならなくなったようである。いつもの通り3冊読んで電灯を消す。カミさんが電話を終えて上がってくるのを待つが、上がってこない。まあ、どうせ今夜は胃が重くて夕食は食えないからいいか……



■4月15日(木)
朝、起きると熱っぽい。今日は思い切って一日仕事を休んで静養することにする。今日も医者に行って点滴してもらった。点滴されている時間は、ただじっとしているだけなので暇なのである。暇なときはバカなことを考えてしまうのである。水滴が落ちるのを眺めながら昨日の続きを考えていたのである。点滴液を人肌に暖めるのであれば、べつにマイクロ波を使わなくても人肌を使えばいいではないか。豊臣秀吉じゃないけれど、看護婦さんが胸で暖めた点滴液……そうだ、これが最上のサービスぢゃないか。それだったら未経験でも若い看護婦さんの方がいいよな。好みの看護婦さんに暖めてもらえるとなると、患者が殺到……しないかな、やっぱり。でも、男は嬉しいかもしれんけど、女性は楽しくないかもしれないよな。やはり、看護士さんが暖めれば喜ばれるのだろうか……ちょっと違うような気もするな。病院がホストクラブみたいになっても困るし。

あとは一日中ひたすら眠っていた。食事以外はとにかく眠っていた。だから書くことがないのである。

今夜は息子を風呂に入れてから親子3人で寝室に入った。息子が寝付くとカミさんは原稿を書きに下りていった。今、彼女は
京×涼の同人誌を書いているのである。しばらくして息子が起き上がった。「かーちゃんとこ、いくの」とか言って寝室を出ていこうとする。また転落されても困るので、慌てて抱き留めてまた寝かせたのであった。



■4月16日(金)
今日は久しぶりにフルタイムで仕事をした。昼休みに職場近くの書店に行く。久しぶりなので初めての本がいっぱいある。

まず目についたのは
『「少年A」この子を生んで……』である。酒鬼薔薇の両親の手記ですね。これは、子育てをしている親として絶対に読まねばならない本だと思うのだが、あいにくハードカバーなのである。私はポリシーとしてハードカバーの本は買わないのだ。固くて読みにくいし、手軽に持ち運べない。そして何より、高価い(爆)。図書館ででも借りるかな。しかし、どうしてハードカバーなんぞにしたのかね。こういう本は多くの人に読んでもらうべきものだろうに。印税を償いに使うというのなら、新書版にでもすれば多少印税を多くしてもハードカバーよりも安価にできるだろうと思うのだが。それで相場より多少高価くても文句は言わないよ、私は。

そして、今月も「SFバカ本」の新刊と「異形コレクションX 時間怪談」が同時に出ている。前回にも書いたが、同じ出版社なんだからこういうのはやめてほしいなあ。仕方ないので「時間怪談」を先に買った。ついでに「パソコンは猿仕事」小田嶋隆氏著)も買う(これは税込み480円なので、いっしょに買っても使用する図書券の枚数は変わらないのだ)。何となく手にとってパラパラめくっていたら面白そうだったのである。パソコンに対してクールな意見が面白おかしく書いてあるようだ。……でも、最近の文庫って、本当に字が大きいねえ。

そういえば、この書店には小説Wings文庫がすべて揃っていた。小説Dear+は影も形もなかったのだが、小説Wings文庫は虐げられてはいないようだ。この様子だと、次回配本分も入荷してくれるかな。今回分が売れなければどうなるかわからないのかもしれないけれど。

アクセスカウンタが700を超えた。すこしペースが上がったか。



■4月17日(土)
息子の調子が悪い。昨日の朝…というより一昨日の夜から、寝ているとき頻繁に咳をする。落ち着いて眠れないようである。昨夜も帰り着いたときには真夜中だったのだが、寝室からゴホンゴホンと彼の声が漏れ聞こえてくる。カミさんも一緒に寝ているようである。起きてくるのを待って日記を書いていたのだが起きてきそうにないので、テーブルの上にあった残り物を暖めて食べる。食べ終えた頃にカミさんが起きてきた。彼女も喉が痛いようである。やはり、病弱家族なのだなあ。

今朝も目が覚めると妻子が帰ってきたところだった。医者に行ってきたのである。息子は今日も熱が38度台ある。明日はカミさんの実家の家族とお祖母さんの誕生祝いの宴があるのだが、無理かな。

そういえば、先日医者に行ったついでに息子の血液型を調べてもらっていたのだが……AB型だったそうである。……そうか、ウチの夫婦の組み合わせだとB型の確率がいちばん高かったのだが、AB型ですか。ちょっと意外である。まあ、彼が妙なところにキッチリしているのもAの血の為せる業か。B型だったらしつけが大変そうだから良かったと言うべきだろう。そういうことだったら、父子二人で少数派人生を歩もうぜ。カミさんに言われたときには「へーっ」という感じだったのだが、医者に行く途中で思い出して、なんだか嬉しくなってきた。そういえば、家族が増えることを知ったときにも、こういう気分だったんだよなあ。

私も午後から医者に行った。今日も点滴をされたのである。中身は元気づけの栄養剤のようだ。飲み薬も出なかったから、症状は無くなったということか。「よく休んで下さい」と言われたし。

カミさんは息子を昼寝させて同人誌の原稿の貼り込みを始めた。彼は咳が出てなかなか寝つけなかったようである。私は日記を書きながらパソコンで遊ぶのだ。久しぶりに
柿木将棋IIをやると、まったく勝てないのである。10秒将棋ではカンが戻らないとどうしようもない。相手の弱点を突くようなセコい指し方をしても、終盤で逆転されたりする。もう、相当鍛えないとコンピューターの方が強いのを認めざるを得ない。

そうこうしているうちに、階上でカミさんの呼ぶ声が聞こえた。息子が目覚めたらしい。力がない。体温を測ってみると……39度ある。食事をさせて早めに寝かせることにする。カミさんが食事の準備をしていると、彼は「なっと、ほしい」と言いだした。納豆ですか。しばらく食べさせていないはずなんだが、覚えているのか。私がスーパーに買いに行くことになる。食事を始めると、彼はほとんど納豆しか食べない。「なっとぉ、ちょーだい」と繰り返す。1パックでは足りずに2パック完食した。まあ、これだけ高熱があっても食べられるものがあるというのはいいことだけどね。でも、吐くなよ。母ちゃんにはバイオハザードなんだから。

食後に熱を計ると、39.5度になっていた。相当グッタリしている。それでも薬は口に入れてくれた。一度、無理な体勢でスプーンを口に突っ込んだため吐きそうになって慌てたが。熱が高いので座薬を入れる。「いたいいたい」と泣くが、我慢してくれ。

お茶とジュースを持って親子三人で寝室に上がる。息子は、私が抱き上げて連れて上がっても抵抗しない。私が絵本を読んでやり寝かしつける。寝るときには母親がいないといけないので、カミさんは横でヤオイ本を読んで待機している。読み終わって電灯を消すと、私は階下に下りた。一度カミさんは下りてきたが、上で泣き出したのでまた上がっていった。結局また寝かすのに1時間以上かかったようである。

……などと書いていると、また階上で息子の呼ぶ声が聞こえた。だがカミさんが上がる様子がないので上がっていくと、3階の階段の踊り場で息子が泣きながら立ち尽くしている。私が上がっていくと、「とーちゃん、ばいばい」と言って私を押し返す。押されて階段から落ちそうになった。カミさんは上がってこない。原稿をしているのだろう。締め切り間際で、もう少しで終わりのようだからねえ。踊り場のところで息子と押し問答する。彼も強情である。頑として私を受け入れようとしない。そうこうしていると、カミさんが上がってきた。彼女は息子と二人で寝室に入り、彼を説得している。「母ちゃん仕事やねん…」息子が寝室のドアを閉め、シャットアウトされたので、私は閉め出されて外で交渉の様子を窺っている。どうやら説得に成功したようである。カミさんと交代し、また絵本を読んでやる。3冊読み終わって電灯を消す。いちおう寝ようとはしているようだが、苦しいのか横になっていてもじっとしていない。何度も寝返りを打つ。息が荒い。これだけハアハア息をしているとノドも渇くだろう、と思っていたら「おちゃ」と言いだしたのでお茶を与える。そのうちにいっしょに眠ってしまっていたようである。カミさんが上がってきたときには3時になっていた。



■4月18日(日)
息子は病気だし、親は昨夜遅かったので、我が家は今朝も遅くまで寝ているのである。朝寝のまどろみの中にいると突然、隣で寝ていたカミさんが夜叉の如き形相で怒りだした。息子が彼女の布団に入っていって腕かどこかを傷めたのであろうか。昨夜も湿布したしなぁ。息子は「かーちゃん、だっこ」と言いながら彼女のところに行こうとするが突き出される。息子は泣く。しゃーないなぁ、こっちに来い。抱き上げて私の布団の中に引きずり込む。だが、彼は父親と寝るのを嫌がるのである。「かーちゃん、だっこ。かーちゃん、だっこぉ。かーちゃん、だっこおおお〜」と泣きわめく。すまん、私で我慢してくれ。あの様子だと、今の母ちゃんは刺激するとマズイのだよ。彼は私の腕の中でもがく。身体が熱い。泣きわめく。顔が彼の涙でビショビショになる。しばらく押さえ込んでいたが、おとなしくなる気配もない。仕方がないので彼の肩をトンッ・トンッと繰り返し軽く叩くとおとなしくなってきた。ずっと繰り返していると落ち着いてきたようである。身体に対する単調な軽い刺激は、精神安定に寄与するのであろうか。しばらくそのまま彼を抱いて寝ていたが、元気そうなので起きることにする。彼を押さえていた右腕が、汗でビチョビチョになっていた。

居間に下りて着替えさせる。息子は今日も
プラレールに付属していたビデオを見たがるが「ご飯食べて、薬飲んでからな」と言い聞かせて、まず食事をさせる。食後に薬を飲ませてプラレールのビデオを再生する。彼はこのビデオを観るときには、椅子に座って観るようにしつけられているのであるが、そのうえ最近はピカチュウの等身大の縫いぐるみを持ってきて、抱きながら観るのである。自分の兄弟だとでも思っているのだろうか。再生を始めて、昨夜日本テレビ系「夜はヒッパレ」を録画していたテープを取りに自分の部屋に下りようとしたら、息子がすごい勢いで追いかけてきた。「すぐに戻ってくるで」と言い聞かせるが、納得しない。仕方ないなあ、いっしょに来るか? 外には行かないぞ。

プラレールのビデオの後、「夜はヒッパレ」を観る。SweBeは巧いっすねえ。声がいい。ハモっているときの声の響きに、肩のあたりの皮膚が粟立ってザワザワしてくる。いいぜぇ〜。近藤房之助氏の声もいいですよねぇ。私は男声はこういう声に弱いんだな。息子は近藤氏が知念里奈ちゃんと「MIND GAMES」を演っているときに手拍子を始めて、終わると「うおー」とか言っていた。やはり、2歳児でも良質なものはわかるのだな。でも、里奈ちゃんは、もうちょっとパワーをつけんとイカンぞ。

今日は息子は元気である。熱もない。昨日40度近い熱を出してヘロヘロだったとは思えない。逆に私が寒気がするので熱を計ってみたら37度あった。まだ治ってないのかなあ。夕方まで雨が降っていたこともあって外に出していないので、息子は部屋の中を走り回る。カミさんが車で本屋に連れ出して、地域振興券で絵本を買ってきた。千円以下なので2冊買ってきたのだが、袋を開けた瞬間、息子はすごく嬉しそうな顔をしてくれた。嬉しいねえ。本を買ってくるだけでそんなに嬉しそうな顔をしてくれるなんて。さすがは我が家の息子である。両手に新しい絵本を持って、満面の笑みをたたえてその辺りを走り回る。「どっちを読む?」ときいても、目移りしてどちらを先に読んでもらうか決めかねている。こういうのは、こちらも涙が出るほど嬉しいものだねえ。

今夜も私が息子を寝かせる。カミさんは原稿の貼り込みである。明日、車で入稿するらしい。息子は、薬で咳は止まっているのだが、痰が切れていないので息をするたびに胸でゼイゼイ音がする。あの、就寝前に飲ませろという水薬、飲ませるのを忘れたけど、あれが去痰剤だったのかもしれないな。これだったら、まだ咳をしてくれた方が安心かもしれない。息子の胸が軋む音がするたびに、今にも息子の息が止まりそうで、こちらの胸も痛む。



■4月19日(月)
今朝は雨が降っていたので、カミさんに息子を保育所に連れて行くついでに車で駅まで送ってもらった。息子は病み上がりであるが、今日はカミさんが車で印刷所に入稿しに行くので、午前中だけでも保育所に行ってもらうのである。私は息子の新しい保育所に行くのは初めてだ。さすがに公立だけあって子供も保母さんも多くて賑やかである。息子は保育所の建物に入ると走り回り始めた。広いせいか、我が家にいるときより動きが速い。それでも、両親が出ていくときにはやっぱり泣かれたのである。

今日は、昼休みに「
SFバカ本 たいやき篇プラス」(廣済堂文庫)、帰りに「宇宙への帰還」(KSS出版)を買った。どちらもSFのアンソロジーである。異形コレクション以来、こういうアンソロジーが編まれるようになったのは良いことであるな。この流れは絶やさないようにしなければ。……でも、私はこれらの本をいつ読めばよいのでしょうか?(笑)

私は読書量が少ないからなあ。学生時代はもう少したくさん読めたのだが、こういう暇のない職業に就いてしまうと、どうしようもない。まあ、ウチの会社の後輩にも凄い読書量のヤツがいるから、やはり本人の心がけの問題なんだろうけど。しかし、子供ができちゃったからなあ。もう勝負にならないや。

通勤時には小松左京先生の「男を探せ」より「男を探せ」と「犯人なおもて救われず」を読んだ。どうも、この短編集に入っている作品は、小松先生の話の中では私の好みではない。あんまり「知的飛翔感」というものが感じられないのだ。「ミステリ風味」だから、あまり大風呂敷を拡げてないしねえ。「男を探せ」などは、好きな人は好きなんだろうけどね。オチがカミさん好みのネタだったし。「犯人なおもて救われず」は……カタルシスがないなあ。そういう話なんだけど。

あ、それから帰りには「SFバカ本 たいやき篇プラス」に載っていた小松先生の対談も読んだのだが…あまり面白くなかったな。「SF作家オモロ大放談」(いんなあとりっぷ社:1976/08/15初版)のようなのを期待するのが無茶というものか。あれだけ発想のブッ飛んだ、どんどん悪ノリしていく人間を揃えるのは至難のワザですから。今の人間にあのノリを求めるのが無理な話ですわね。まあ、そういうのが目的の対談でもなかったんだろうし。

今日は、上司が体調不良で早く帰ったので、便乗して早く帰宅したのだった。玄関の前に立つと、ちょうど風呂に入るところだったようで、カミさんがドアを開けてくれた。息子が脱衣場から顔を覗かして「とーちゃん、かえってきた」と言う。彼は元気なようである。風呂上がりにも走り回って服を着させてくれないし、服を着てからも両手を持って持ち上げてやると、それを何度もやらされる。際限がない。子供は本当に繰り返しに強いものである。

今夜はカミさんが息子を寝かせてくれる。息子はカミさんに伴われて、私に「ばいばい」して居間を出ていった。しばらくすると、大きな音とともに息子の泣き声が……また階段から転落したらしい。後頭部に大きな瘤ができていた。うむむ。寝室でしばらく彼の様子を見てから、居間に下りて夕食を食べていたら電話が鳴った。若島津さんからだった。もうすぐ小説Wings文庫から出る「対なる者の証」のイラストの話のようである。まだ終わってなかったのね。かなり状況が切迫しているはずなので、寝室に行ってカミさんと交代する。息子は眠りかけていたようだが、私が入ってきたので起き上がってしまった。だが、私が横になってじっとしていると、彼も横になって静かになった。今日は昼寝をしなかったらしいしね。

若島津さんは、今朝までアシスタントの仕事をしていたらしいのだが、出版社から「対なる者の証」のイラストを「明日中に」と言われたらしい。「新書館を呪いながら描いている」そうである。



■4月20日(火)
桂枝雀さんが亡くなられた。
先日も書いたが、ショックである。私もけっこう長く生きてきているが、「この人は凄い」と思える人間を見たのはそれほど多くはない。あの方はその数少ない人間の一人だった。あの方の噺がいちばん面白かったのは、今から20年くらい前だっただろうか。「枝雀」を襲名した直後くらいだったのではないかと思うのだが、あの頃は凄かった。深夜のラジオで聴いて弟と二人で腹を抱えて笑いながら、「この人はいったいどこまで行ってしまうのだろう」と畏れにも似た気持ちを抱いたのを覚えている。

それでも15年くらい前からは、あの鬼気迫る面白さというのは無くなってきて(そりゃ、ああいう神に魅入られたようなことができるのは人生のうちでも短い期間だよな)、録画して観るほどでは無くなっていたのだが、それも御本人には悩みの種だったのかもしれません。

とにかく、芸に対しては妥協を許さない方だったそうですから。また、物事の考え方が度を超して真剣だったということも聞いています。落語家なんて気楽な稼業だと思っている人もいるかもしれないですけどね。それだけ物事を真剣に捉えてしまうからこそ、小米時代に「死ぬのが怖い病」にかかってしまったりするのでしょう。端から見ていると、ずいぶん余裕が無くて危なっかしい考え方だと思いますが。きっとそういうのはビョーキと紙一重なんですね。

ウチの兄弟も枝雀師匠には心酔していたので、かなり影響は受けている。ある日、まだ弟が学生の頃だったと思うが、会話の途中で片方がいきなりこういうことを言いだした。
「おい、人間、死ぬんやぞ。どないしょ」
「あ、ほんまや。どないしょ」
「どないしょどないしょ」
「どないしょどないしょ」
こんな調子である。でも、そんなことを言っていたのもその場だけのことで、すぐにまた怠惰な日常に戻ってしまったのが我々の凡人たるところなのだが。

とにかく、ご冥福をお祈りします。週末くらいには昔のビデオを引っ張り出してきて観てみるかな…

■ ■ ■

話は変わって、今日は「コドモ界の人」(石坂啓氏)を買った。前作の「赤ちゃんが来た」が良かったので買ったのである。今回もなかなか面白そうだ。

今日は通勤中に「男を探せ」から「凶銃」と「ヴォミーサ」を読んだ。これで「男を探せ」は読了である。「凶銃」もSFとはちょっと違うのだが、この作品はけっこう楽しめた。そして、「ヴォミーサ」である。この作品は、タイトルがあまりに衝撃的なので忘れられない作品なのである。だから、読む前にネタがバレているのだが、それでもすんごく面白い。これは本格SFである。しかし、SF的な味つけがなくてもサスペンスが目を引きつけて離さない。そして、最後のオチも効いてるよな。これは紛れもなく傑作だ。

最初に読んだときにも途中でネタがわかってたから……と書こうと思いながら読んでいたのだが、読みなおしてみると、ある程度の基礎知識のある人間ならちゃんと気がつくように書いてあるんだもんな。自分はわかった、と読者の優越感を撫で上げるように作ってあるんだな。ネタバレしても充分面白いという自信の表れでもあろう。

コンピュータの仕事を長い間やっていると、この作品で小道具として記述されていることがよく理解できるようになっているのに気づく。もう四半世紀近く前の作品なのにねえ。この分野は進歩が猛烈に早いというのに。

職場からの帰りに地下鉄から降りて夜道を歩いていると、私の前をねーちゃんが火のついたタバコを持って歩いていた。それも、長いタバコの末端を指で挟んで火のついた側を身体の外に向けて立て、腕を振っている。他人に対して、すんげえ危ない持ち方だ。そのうえ、しばらく後ろを歩いていたのだが、その間まったく吸おうとしない。何だ、コイツは? オヤジはまだ吸いたいから持っているのだが、コイツは違うのか。どうも、ああいう持ち方で歩くのがオシャレだとでも思っているのだろうか。タバコの煙が煙いのはもちろんだが、子供を持つ身になってみると、ああいう歩き方をされると無性に腹が立つのである。アンタの振っている手の高さは子供の顔の高さなんだからな。私もスーツに火を押しつけられたことがあるのだ。そういえば、「傷だらけの女」とかいうドラマのエンディングで主演女優が『火元を外に向ける典型的な「女性型歩行喫煙」』をしている、というのに抗議されたフジテレビの広報が『ポイ捨てはしていませんよ』とうそぶいたというが、まったく救いようがないね。プロデューサーも『女性が見て、カッコいい生き方に共感してもらえれば』などと言っていたらしいが、底が浅いのも甚だしい。ひょっとすると、これで物議を醸して視聴率を取ろうという浅ましい考えなのか。あのねーちゃんも、ひょっとするとこの馬鹿テレビ局の影響なのだろうか。こういうのがライフスタイルとして定着しないことを切に祈るのである。

今日も、上司が身内に不幸があったとかで休んだので、早く帰ったのである。明日はキツくなりそうだな(おいおい)。帰ってみると家に妻子はいなかった。昨夜、息子が後頭部を強打していたので心配したが、すぐに帰ってきた。前の保育所の集会に行っていたらしい。息子は久しぶりに行ったので猛烈にはしゃいだそうである。キミにとっては、すごく懐かしいところだろうからねえ。

先日買ってきた絵本に大きな卵が出てくるのだが、息子は卵のことを「ままご」と言うのである。今日もカミさんが「『たまご』やで」と言うのに「ままご」と言って譲らない。なかなか強情なヤツではある。



ホーム  日記の目次へ  次の日記へ