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▲4月11日(日)▼ →
昨日から息子は大阪市立科学館に行きたいと言っている。朝食後、彼に「イノセンス」を観てから行かないかと提案してみる。
「市立科学館、映画観てから行かへんか?」
「何時から?」
「1時から」
「何時まで?」
「2時半まで」
「1時間半やったらええわ」
交渉成立である。こういう、大人でもわけがわからんという評のある映画を観せるというのは児童虐待にあたるのかもしれないんだけどね(苦笑)。
カミさんが前売りを買っていたようだが所在が分からない。家を出る前に洗濯物を干すため寝室の窓を開けてベランダに出ても彼女は起きないので、前売りの使用は諦める。200円や300円のために彼女を起こすわけにはいかない。
息子のリュックに彼のパンツとズボンを入れさせ、ペットボトルにお茶を入れて出発である。午には家を出るつもりだったのだが、洗濯物を干していたら少し遅くなってしまった。しかし直前には別の映画を上映していたのだが、入れ替えになって入場しても我々親子しかいなかったので貸し切り状態なのではないかと思うくらいであった。もう少しゆっくりしていてもよかったか。この映画を観るような濃ゆい人は数少なくて、しかも封切直後に観てしまっているんだろうな。今ごろノコノコと観に行くのは薄々の一般人の証明だよなあ。それでも、上映開始時には2桁の人数にはなっていたようである。
息子は駅に着いたときに「おしっこ!」と言ってトイレに駆け込んだので、あと1時間半くらいは保つだろう。そして、この作品は彼にはチンプンカンプンのはずだから質問責めが来ると予想される。他の客の迷惑にならないよう、事前に「他の人、居てるから、喋ったらあかんで。わからへんかっても自分での頭で考えるんや」と言い聞かせる。おかげで彼は最後までほとんど声を上げなかった。偉いぞ。
それでも、息子は途中でまだ終わらないのかと囁いてくる。やはり退屈なようである。うーん、やっぱり児童虐待だったか。でも、カミさんは息子の相手をするのが苦痛みたいだから家に置いておくわけにもいかないからなあ。もう少し我慢してくれ。
んで、感想である。テーマとしては、現実と仮想現実の境目はどこかという、いま流行りのネタである。この人がずっと問い続けてきたテーマのようだが、コンピュータが高性能・大容量化してきたことにより一般にも認知されてきた問題であろう。SF界で言えば、この分野ではイーガンが小説、それも短編で鋭い断面を切り取って見せてくれている。この作品で描かれている世界のように自分の感覚を電子的に強化してしまった時点で、それはシミュレーションにより置き換え可能なわけで、現実である保証が難しくなるのは当然のこと。SF読みとしてはそれほど目新しくもないなあ、という感想であった。
旧約聖書や孔子の言葉などを散りばめて、わざわざ難しく見せているように見えるのも個人的には感心できない。何回も観なければ内容を把握しにくくしてリピーターを増やしたりDVDが売れるようにするためにやっているのではないかと深読みしてしまった。信者な人には何度も観れるしそれによって理解が深まれば他人に自慢できるしで大喜びなのかもしれないが、私のような一見の非信者には「何を気取って難しくしてるの?」という感じであった。エヴァでも謎本が一つのジャンルを形成してしまったくらいで私もそれに乗ってniftyの「邪推委員会」という会議室で踊っていたクチだが、この作品にはどうもしっくりこないのである。エヴァではあの謎も作品の一部だったが、こちらはどうもとってつけたようで。一介の捜査官が日常会話でこんな言葉を引用して語りますか?
それも、この作品の製作にかかってしまった莫大なコストを回収するためなのではないのか。あの圧倒的なCGを観てしまえばそういう邪推も頭に浮かぶのである。あれほどの金と手間をかけたCGでなければ、このテーマを伝えられなかったのだろうか。それも観ながら感じていたことである。作品としては過剰なクオリティではないかと。イーガンの鋭い切り口を見ているだけにそう感じてしまうのである。
金の掛けどころにも納得できない。ちょっとした挿入画像にも気が遠くなるような手が掛けられていたように見受けられるのだが、ワタクシ的にはあの場面をあそこまで細かく描写しても作品全体のリアリティが上がるとは思えないのである。逆に白けてしまったくらいで。ま、それが創作者としてのこだわりだと言われれば、私ごときには何も言えないんだが。
このようなテーマを描くのであれば、この作品のようなアニメ絵の方向からリアリティを追求したCGではなく、実写映像をシミュレートするような画像で攻めるべきではなかったのだろうか。金と手を掛ければ掛けるほどリアリティから遊離していくようで。それも白けた原因の一つである。すでにそういう方向からのアプローチもやっているのかもしれないが。
個人的には、「機動警察パトレイバー2 the Movie」や「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」のあたりが最もバランスが取れていたのではないかと感じてしまうのである。海外で評価されて、それを知った国内の資本がその内容ではなく「評価されていること」に対して資金提供していることによって、かえって作品を歪めてしまっているのではないかと。私は薄々の一般人だし押井信者でもないので、かなり否定的な感想になってしまったかもしれない。
続いて大阪市立科学館に行く。映画を観ていたので多少遅くなったが、それでも展示場を2周することができた。そして帰りにジュンク堂に寄る。歩いているときは疲れたとか言っていた息子が、児童書のコーナーに行くと目の色が変わる。自分で本を選んで、腰掛けのところで座って読み始める。1冊読み終わって次の本を手に取ろうとしたので止める。カミさんには18時に帰るように言われているのである。これ以上ここにいると、その時刻には帰れなくなって、また私が折檻されてしまう。
帰りにJRの切符を買って構内に入ると、息子が小声で何か言う。訊いてみると「するっとかんさいかーど、見当たらないんだけど…」何だと! また無くしたのかよ。それじゃ、帰りに飲ませると言っていた生ジュースも当たりつきの自動販売機も無しだ。もうお前にはカードは持たさないからな。
▲4月12日(月)▼